iPhone 5sのファーストインプレッションである。
いままでさんざん噂記事を読み、翌朝公開されたキーノートを見ているので、とりたてて意外に思うことはなかった。
ひとつ気になっていたのは、画面が小さくなること。本当に僕の老眼で4inchのディスプレイの文字が読めるのか? という問題。
結論からいうと、そこはさすがにRetina Displayと長年培ったAppleのフォントレンダリング技術。デフォルトの文字サイズでも、全く問題はなかった。読める。小さいけど。表示面積の狭さで構えるところはあるけれど、内容に没入すれば、Galaxyの中華フォントにイライラしながら読むよりも、よほど美麗な文字とレイアウトで、さらさらと読める。このストレスのなさはさすがだと思った。さらに、設定で対応しているアプリやサイトでは文字の大きさのデフォルトを調整できる。いちばん大きいところのひとつ下ぐらいがよさそうだったので、そのようにしておいた。とはいえ、非対応アプリやサイトで読みづらいということは全くない。Galaxyのほうがよほど醜悪である。
それから、iPhone 5と同じだったかどうか確認していないが、軽いこと。本体が小さく、それ以上に軽量なことで、ポケットに入れられる。Galaxyはポケットでは存在感があって、長時間入れておくにはためらわれるが、iPhone 5sはポケットにあったことを忘れてしまう。ふと気づいてさっと取り出せる感じは久しぶり(iPhone 4をほんのわずかの間使ったとき以来)。
だが、モノとしての魅力はここまで。金型を使わずNCによる切削加工は金型データの流出による粗悪コピー中華Androidマシンを避けるのと金型不要でコストを大幅に削減できることから採用されていると考えるのだが、ソニーがいみじくも言うように、両面ガラスへのこだわりは重要だと思う。Appleがこれを捨てたのは、軽いという点での貢献と、ガラス割れの損害が半減することにあるのかもしれないけれども、存在感が、どうにもビンボくさい。工場での量産品、だからこそ安いわけだがそれにしてもフラッグシップ機の存在感とはほど遠い。
そこを工作精度の緻密さで勝負しているわけだけれど、それは金属加工を知っている人に「ふーん」という感想を与えるだけで、一般の人にはなにも響いていないように思う。iPhone 5が売れなかったのは、4Sとの差が実質(LTE対応の地域が限られたことを含め)あまりなかったことも大きいかもしれないが、消費者感覚として、「軽い」以外の魅力と「長い」という形以外の印象がなかったことが大きいのではないか。
実のところ、iPhone 5sは、iOS 7との組み合わせでようやく実力が発揮されていると感じている。iOS 7は、iPhoneユーザにとっては4Sでもサクサクなのだそうで、とりたてて買い換えるほどのアピールにはなっていないようだが、iPad 3では明確にもっさりとしており、おそらくiPad 4以上でなければ使い続けることに疑問を持つことになると思う。というか、iPad 3 + iOS 7の「もっさり感」は、iPad 2が出たときのiPad 1に対する印象と同じぐらい悪い。
一方で、iPhone 5sでのiOS 7は当然64bitコアに最適化されたOSであることやCPU及びGPUの性能向上で明らかなアドバンテージがあるのは当然のことながら、えーとなんだっけ、「Touch ID」だっけか、指紋認証との統合や、おそらくM7サブプロセッサによるものと思われる、モーションに対する精度良い反応、そして、まるでWindows 8からパクったような、画面外からのスワイプという新しい要素が自然にUXに組み込まれていることだ。いったん覚えたらもう以前の使い方には戻りたくないと感じさせられる作り込みがそこにはある。つまり、ハードウェアとしてはチープとまでは言わないものの魅力に欠けるがソフトウェアとの組み合わせでなんとか優位性を保っているように思われる。
UXという点では、ネットではGalaxy Noteに対する評価が高いようだが、僕は基本的にTouch Wizが大嫌いだしAndroidそのものが与えるUXには一貫性が低いと感じているので(特にTouch Wizはソフトウェアボタンの左右がバニラ・アンドロイドと逆で、メニューがそこに割り当てられていることに、Nexusシリーズとの間で大混乱をしていたので許せない)積極的に興味を持つには至っていない。ワコムのSペンが新しいUXを与えていて秀逸だ、ということは読んで想像の範囲で理解できなくはないので、そこまでを否定するつもりはない。
一方で、iOSはiOS 3(までしか知らないのだが)から決定的な変更はなく、脱獄Tweakで実現されてきた「こうであったほうが操作性がいい」を着実にパクる(もしくは実際に開発者を雇って組み込む)ことで順調によいUXを与え続けることに成功していると感じていて、久々にiPhoneに戻ってきて懐かしさを感じるほどだった(iOS 4とiOS 7という違いがあるのに)。不満を挙げるなら、いいかげんSpringBoaradの不自由さはなんとかしてもらわないと、アイコンが何ページにもわたってずらずらと醜悪に並ぶのは勘弁してほしい、という程度だ。たしか、アイコンに関しては1段フォルダが追加された以外の変化はしていないのではなかっただろうか。多段フォルダがいいかというと疑問だけれども、Windows Phoneのパネルに大きさのバリエーションをつける部分、Androidのアイコンをグリッド上の自由な場所に置けること(これは脱獄Tweakの基本だ)、脱獄Tweakに多い、Notification Centerへのウィジェット追加(コントロールセンターとして一部取り入れられたがユーザーカスタマイズできないのは不便)など、学ぶべき改良点は多いはずだ。ジョブズとジョニーのSimple思想に反するのかどうかわからないが、「誰かうまいことジョニーを説得して新しいデザイン言語をアドプトするまでたたかえ」と言っておくことにする。
ついでなので、ドコモショップで買い物をする人も多いと思うので、アクセサリーについてもぼやきを述べておく。
まずフィルム。iPhoneを修理不能になるまで使い続ける人は別として、買い替えを考える人なら必ず中古に出すはずで、その際、ガラス表面のコートの状態で買取価格がかなり違うので、保護フィルムは絶対に必要なのだが、どうして日本で売っているフィルムはどれもだめなんだろう。
いや、iPhone 4のときには香港から郵送したりしてもらって何十円とかだったので、「やっぱ国産は違う」と思っていたものの、「堅けりゃよいってもんじゃないだろう」というのが僕の意見。特にiOS 7では書体が細いことから透明度が重要になるので、スモークの選択はありえない。しかし、薄かろうが厚かろうが、自己修復機能があろうが、いずれにせよ、縁にほこりがたまったり、悪くすると引っ掛けてはがれたりするのは、たいへんよろしくない。はがれたら、たいていホコリが入るし場合によっては折れ曲がってそれっきりということもある。業者は買い替え需要があって助かるかもしれないが、買い換えるつもりで何百円も出して買っている人は少数だろう。
アメリカで、たまたまRadioShackが扱っていたGalaxy SIII用保護フィルムを$17ぐらいで購入したのだが、これはよかった。柔らかいのだ。イメージとしては、図書館などで図書の表紙にべったり貼り付けるビニールシート、もしくはビニール傘のビニール部分をイメージしてもらいたい。これが、弱い粘着力でも画面にぴったりと貼り付くのだ。そして、指紋は全くつかない。当然、ほこりがたまることもない。やんわりと衝撃も吸収して、指触りはサラサラではないが、べったりというのでもなく、人肌というか、あたたかみがあってよい。スタイラスに向くかと言われれば疑問だが、ファブレットサイズ以上でもない限り、指以外で操作することは少ないと思うので、せめてスマホサイズではこの材質を積極的に採用してもらいたい。
その点、本日購入した「Glass」という、2500円を超える価格の商品はその真逆に屹立する偉大な山岳だ。店員によるとなにやら硬さを表すH3というのが普通の商品のところ、これはH9であることが売りとのこと。なんだかよくわからないが普通と違うということで、価格的には無理を感じながら買ってみたが、これはフィルムではなく板だった。厚さ0.5mmの
おそらく、iPhone 4Sや5でガラスを盛大に何度も割った人の要望を叶えるためのものだろう。これだけの厚さの板で防護すれば、角から落とすとかでもない限り、衝撃のかなりの部分は受け止めてくれるだろう。また、ひびが入ったとしても指にあたって痛いとかそういうこともないだろう。
だが、この厚さのため、ホームボタンが異様に陥没した状態になる。当然メーカーも承知しているようで、「高級感のあるアルミ製ボタンカバー」がついているのだが、たしかにAppleのガイドラインに沿って、導電性のあるカバーでなければTouch IDが反応しないから金属を使うのはいいのだが、僕は真っ黒にしたいのであって、そこだけ輝くのもどうかと思うのだ。(追記:また、指紋センサーの上を覆ってしまうので、指紋読み取りができなくなるような気がするのだがどうなんだろう。)したがって、なんだか奥まったホームボタンで指紋認証をしたりして、慣れるよう努力してみた。
ところが、これだけの厚さがあっても気泡はできる。それもわりと盛大に細かいやつが。RadioShackのやわらか素材でも盛大に気泡は入るのだが、これはなぜか液晶を点灯すると全く気にならないのでそのままにしていた。一方で、この板の下の気泡は、板の存在感がありまくりなので足の裏の米粒というのか、ただそこにあるというだけで猛烈に気になる。ので、何度も貼替えをトライしていたら、板が反ってしまった! 板なので、反ったらガラスに密着しない。気泡どころではない騒ぎで、下から貼っていったので上のカメラ部分あたりは完全に浮いている状態になってしまった。これでは使えない。(追記:ガラスが繰り返しの曲げでほんとに反ってしまうのかよくわからないのだが、事実そうなったので、お求めになる方はご注意を。念のため、アイロンをかけてみるつもりではあるけれども。)
というわけで、「ガラスを割った心の傷が癒えない人」以外には、この商品はおすすめできない。「なんとなく高級そう」とか生ぬるい気持ちで購入して幸せになれるかどうかは、その人次第ではあろうけれども僕には疑問だ。
次、ケース。本体がビンボくさいので、せめてケースはパリっとしてやろうかとアルミの「うすうす」ケースにしてみたが、ちっともリッチにならなかった。金属であるから当然衝撃にも弱いはずで、そうしたらすぐ裏のアルミケースにへこみなどが及ぶことは容易に想像できるため、割りきってプラスチックケースにすべきと思った。
iPhone 5cはアキバのイオシスで、販売前に中国から流れてきたモックを手にしてみた程度だが、あれは論外で、例えばNokia Lumixシリーズのプラスチック筐体はとてもよい。軽くて強度があり、弾性も適度にあるため、少々雑に扱っても壊れない安心感があり、また傷にもならない。iPhoneのようにうやうやしくネジを外して分解するような世界ではなく、またGalaxyのように安物のパネルをパカっと外すような、やるたびに気分が萎えるようなこともなく、Lumixのプラスチックケースは気軽にパカっとあけて電池やSDカードにアクセスできる感じなのに特にチープな印象もなく、「このデザインはありだな」と思わせるバランスに仕上がっている。
iPhone 5sに戻ると、そういういわけで、プラスチック素材で柔らかく包むことが、こうなんというか、フラジャイルな感じのiPhone 5sには必要ではないかと思う。Apple純正が合成皮革素材に内部は起毛素材というのは、まったく理にかなっていると思う。皮のイメージでゴージャス感を出し、耐衝撃性とふんわり包む安心感を装着する人に与えるという計算がなされていると想像できる。お金に余裕があって、皮に抵抗がない人は積極的に選んでいいのではないか。個人的にはiPad 1でむやみに重たい全面保護装備の純正ケースでこりごりしたので、Apple純正品は過剰装備と思っているから考えていないけれども。
あと、Appleのガイドラインでカメラ周辺には十分な空き空間を作るとともに反射を抑えるため黒色にすることが指示されているが、今回購入したアルミうすうすケースは、カメラ周辺の開口部がしっかりとってあり、そのせいでせっかく真っ黒にしたかったのに本体がカメラ部分の黒から中央の「グレイ」に切り替えられている部分も窓から除いてしまうという間抜けな結果をもたらしてくれた。ここにも苦言を呈しておきたい。
Appleが要請する空きの大きさが、色の切替部分をも含むものだとしたら、ケースデザイナはそれが浮いてしまわないよう配慮しなければならない。シルバーやゴールドはあまり大きな色の違いはなさそうだが、真っ黒にしたい人向けのケースは難しそうだというのが今回の印象。できることなら、本体の色と装着状態が確認できるようなディスプレイを店舗には期待したいとともに、裸の本体に見本のケースをはめてみてから買うぐらいの余裕をもってケース選びをしてもいいのではないかと思った。